「みんなでがんばろう」は弱者につらい
NPO法人アトピッ子地球の子ネットワーク
事務局長 赤城智美
汗を上手にかけないアトピー性皮膚炎の人や自律神経のバランスが崩れているアレルギー体質の人の体調管理を心配しています。「みんなでがんばろう」「節電のために冷房の温度を一度上げよう」という、みんなの「正しい取り組み」に対して静かに人知れず困っている患者達のために、なんとかしなくちゃと思い悩む日々です。
アトピー性皮膚炎に限らず、体表面の広い場所に皮膚疾患がある人の中には、汗をかくことができず熱が体内に籠ってしまうため、一般の人よりもかなり低い温度で熱中症を起してしまう人がいます。扇風機や冷房を上手にコントロールしながら体温を管理するために、自宅では「あらゆる電化製品のコンセントを抜いても、エアコンや扇風機は使おうね」節電は「目的別重点使用方式」でいこうと患者に呼びかけています。
喘息や通年性の鼻炎や花粉症がある人は、建物の中と外の温度差が激しいと咳やくしゃみが出てしまったり、気道が過敏な状態になって息苦しくなる人がいます。温度差は苦手なはずなのに、身体が暑い状態をずっとがまんしていてもくしゃみや咳でどうしようもなくなったり、熱が身体の中にこもったまま外に発散できず、温度はそんなに高くないのに熱中症をおこす人がいます。
身体のオンオフスイッチ(自律神経)がうまく働かず、夏でも手足が冷たいのに室温が暑いと汗が 出ないのに体内に熱がたまることになるのではないかと推察されます。そういった体質の人も、冷やし過ぎはよくないのですが、ほどほどの体温調節の手助けとなる「クールダウン」は必要です。
街中オアシスという取り組みを行っている地域があると聞きましたが、これは有難いと思いました。図書館や区民センターなどの公共施設を中心に地域の喫茶店やレストランなどにも協力を仰ぎ、職場や自宅が暑くても「街中オアシス」に来れば身体を冷やして、一息つくことができるというこころみで、高齢者や親子連れのみならず多くの人に利用してほしいと呼び掛けているのです。
そもそも電気は本当に足りないのか? みんなで不便を共有することで「電気が足りないのは辛いから、やっぱり原発は必要なのだ」と市民をミスリードする人や組織があるのではないか? という疑問はふつふつとわいてきます。しかし、電気需要の真実を検証する余裕もなく、とりあえずは周りから顰蹙を買ってもいいから自己防衛を頑張るのだと患者を応援しています。
今日も被災地から「初めて電話しました」と言って救援の要請が来ます。がれきの撤去や泥のかきだしが続き「復興」に向かう活動が活発化したことで、匂いや粉じんで呼吸困難や皮膚疾患の悪化にさいなまれて救援を求めてくるのです。「もうそろそろ頑張れないかも」という言葉を耳にします。「『みんなで頑張ろう』は弱者につらいよね」と私たちもこそっとつぶやきます。でもどうしたら弱者の困難が解決できるのか、切り開く何かがあるはずです。それを考えるのが私たちの仕事ですよね。
「消費者リポート」第1490号 2011年7月21日発行 金糸雀日記より転載