「のんびり行こうよ」 赤城智美 アトピッ子地球の子ネットワーク事務局長 第一回
「のんびり行こうよ」は、『アトピー最前線』50号(1999年4月号)~ 68号(2000年11月号)に不定期連載された、アトピー・アレルギー性疾患をもつ子どもの子育て奮戦記です。
第1回 「食べるものがない」だなんて
「今日はパンのある日だから、ごはんを詰めといてね。梅干しも忘れないでよ」大きな弁当用のジャーを肩にかけ、ランドセルをしょって、息子は今日も元気に登校した。
彼は、卵(鶏のもの)、大豆、豆類、小麦、米、油、天然酵母、タートラジン色素をはじめとする着色料、保存料、カレールウなどにアレルギー反応を示す、10才のいたずら盛りの少年である。
トマト、ほうれん草などの、ヒスタミンの多い野菜や、メロン、バナナなどのセロトニンを多く含む果物も、無・低農薬のものやポストハーベストの心配がないものなら食べても体調は悪化しないが、農薬の散布回数の多いものを食べると、見る間にくちびるが腫れ、腹痛をおこし、翌日は手足をかきむしることになる。
お米は最近、生産者のわかる由緒ただしいものなら、普通に食べられるようになってきた。大豆は、調味料や加工品を含めて何でも食べられるようになったが、大豆油だけは、食べると体が嫌がっている感じがする。とにかくかきむしる、鼻水が出る、不機嫌になる。
体調を考えながら食べる量を調節することで、多少食べても大丈夫というものは、竹の子、里芋、山芋、ごぼう、チョコレート、ナッツ類、などである。保育園の入園や小学校の入学の頃は、今よりもっとダメなもののリストの方が多かったのだから、現在の息子の食は、幅広く豊富だと感じているのだが、周りの人からは依然として、「食べられるものがないね」と同情されたり、おどろかれたりしてしまう。
今もし卵や乳製品を間違って食べてしまったら、息子は呼吸困難をおこしたり、高熱が数日間つづくかもしれない。場合によっては、全身にアトピー性皮膚炎が広がって、1度の失敗で1年近く、痒い毎日をおくらなければならなくなるだろう。(実は昨年それをやってしまいました)
その意味ではたしかに「制限のある食生活」は厳しいものであるけれど、だからといってわが子と暮らす10年は、決して辛く悲しい毎日ではなかったと思う。
食べることを中心に毎日が回っている時期もあり、食卓を豊かなものにしたいという気持ちでせいいっぱいな時もあったけれど、おかげで「豊か」とは何だろうかと、ずいぶん考えさせられた。
食卓だけでなく、洗濯や掃除をとおして暮らし全般を見渡さざるを得なくなった。
そんなことがあり、これは息子に伝えておきたいなと感じたことを、先に皆さんにこっそりお伝えするつもりで、しばらく連載します。おつき合いいただければさいわいです。
※『アトピー最前線』50号(1999年4月号)より転載