「のんびり行こうよ」 赤城智美 アトピッ子地球の子ネットワーク事務局長 第八回

「のんびり行こうよ」は、『アトピー最前線』50号(1999年4月号)~ 68号(2000年11月号)に不定期連載された、アトピー・アレルギー性疾患をもつ子どもの子育て奮戦記です。


 8回 失敗しながら食べられるものを見つけた

からだがびっくりした
 息子が4歳のころ、保母さんがまちがえて、卵の黄身がまぶしてあるサラダを食べさせてしまいました。
 たった一口食べただけなのですが、その晩、彼は40度の熱を出しました。  座薬は効果がなく、45日高熱のまま過ごしました。このときの息子は、解熱剤を使ったあとのほうが調子が悪く、重湯以外の食べ物も、下してしまう状態でした。これは「からだがびっくりした状態」なのだろうと感じ、解熱剤も2回使っただけで、水分補給を十分すること、からだを冷やさないことにだけ気をつけて、あとは何もしませんでした。息子は高熱にも関わらずとにかく元気でした。
 原因は卵だとはっきりしており、いざとなったら夜間救急診療窓口に行けばいいという気持ちも手伝って、様子を見ながら持ちこたえるという経験をしました。このときの、「子ども自身のからだの自然な回復力を信じる」という経験は、私にとって貴重なものとなっています。彼は1週間でぼぼ元通りの体温に戻り、ほどなくして普通食に戻しました。

保母さんと医師に経過報告
 保育園の保母さんには、体調の変化について経過報告をしました。保母さんはひじょうに恐縮なさっていましたが、私は非難しませんでした。それよりも何が起こるか詳しく知ってもらい、もう一度同じ事故が起こったとき、より適切な対処をしてほしいと考えたからです。保育園の管理体制を批判しても、管理者である園長さんを刺激するだけではないか、それよりも現場で働く保母さんを勇気づけようと、そんなふうにも考えました。
 以前、診察を受けたことのある食物アレルギー専門医に経過報告をしたところ、これを機会に二次製品を食べる練習を始めてはどうかということになりました。卵の場合の二次製品というと、ちくわ、かまぼこ、パン、クッキーや、揚げる手前の段階まで加工してあるコロッケなどで、卵の加水分解物を使ったものなどもあります。
 小学校入学前の2年間は、発熱プラス下痢といった大失敗を2回ほど、膝やひじの裏にアトピー性皮膚炎が出たり、少しゼーゼーと息が苦しくなったりという小さな失敗を何回か繰り返しながら、さまざまな食べ物にトライしました。
 その結果、卵と一緒に植物油を含むもの、油と小麦・油と乳製品など複数重なって含まれるものは食べられないけれど、その他の二次製品はだいたい食べられるようになりました。パンとクッキーは最後までダメなものとして残りました。

何がやばいか知っておこう
 失敗を繰り返すということは、仕事を休んだり通院したりすることになり、親子ともどもやりくりするのが大変でした。でも、よかったこともあります。それは、「これを食べてみてかゆくなったら次はやめようね」とか、「今日トライしてみる? それとも明日にする?」というように、親子でいろいろ話し合えたことです。
 子どもは「うん」とか「あした」とか、その程度のことしか答えてはくれないのですが、あれこれ話し合ううちに、「これを食べるとすごくかゆくなるぞ」とか、「息が苦しくなっていやだった」ということを、きちんと自覚するようになったのです。「これは食べちゃダメ」と私が言う前に、「別なものを出して」と主張するようになったのは、大いなる副産物でした。
 親子で取り組むトライ&エラーは、「早く卵を食べられるようになりたい」という意欲ではなく、「何がオーケーで、何がやばいか知っておこう」という共通のテーマに支えられていました。
 *掲載当時の資格名である、保母をそのまま使用しました。

『アトピー最前線』62号(20004月号)より転載